ローン特約の否認ー不動産取引にかかる裁判例(1)

今回からRETRO(不動産適正取引推進機構)が公表している不動産取引にかかる裁判例についてお話ししていきたいと思います。

今回は、「保証人が建てられないことを理由にローン承認取り消しとなった買主のローン特約による解除が否定された事例」(RETRO NO127 2022年秋号から)についてです。

不動産の購入は、大きな資金を必要とするのでローンの利用が一般的です。ローン特約とは、ローンが通らなかったら、不動産契約そのものを白紙解約しましょうという趣旨の特約です。そうしないと、買主側の負担が大きくなるからです。買主はローンが通らないと、大きな違約金を払わなければならなくなります。

今回の争点は、買主が当初想定していた保証人を立てられなくなったためにローンが通らなくなったことが、ローン特約に適用できるかどうかという争いです。

不動産契約には、「融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1までに、前項の融資の全部又は一部について承認を得られないとき、又、金融機関の審査中に標記の融資未承認の場合の契約解除期限(I)―1が経過した場合には、本売買契約は自動的に解除となる。」という文言があります。

一方、本問題の重要事項には、売買契約締結時または上記指定日までに申し込まれたこれらの融資金額の全部またはその一部について、融資が実行できないことが確定したときは、お客様または売主は契約を解除することができます。ただし、手続きの遅延、融資の取止め、融資審査終了後の申込内容の変更などお客様の事由により融資が実行できなくなった場合は、融資利用の特例は適用されません。という条項がありました。これが、買主の責任の根拠となりローン特約が認められませんでした。

弊社が利用している全国宅地建物取引業協会の制定する契約書では、「買主が第1項の融資の申込手続きを行わず、又は故意に融資の承認を妨げた場合は、第2項の規定は適用されないものとする。」となっています。本契約書では「故意に融資の承認を妨げた場合」の判断が難しいところです。本事例に当てはめて考えると、予定していた保証人を用意できなくなったことが、故意に融資の承認を妨げた場合にあたるかということです。一概に判断できるものではありませんし、宅建業者が判断できるものでもありません。

このようなトラブルにならないよう、買主はローン手続きをしっかりと誠意をもって行うことが大切ですし、特にローン特約は契約の解除要件が書かれていますので、どのような契約内容であるかをしっかりと理解しておくことが必要です。ローン特約があるから、ローンが通らなかったら大丈夫だと安易に考えるのではなく、ローンが通らない場合でも、その理由によって契約は自動的に解除にはならないことがあるということをしっかり認識することが必要です。

興味のある方は、「RETRO」で検索してみてください。