『第三の大国 インドの思考』


第三の大国 インドの思考
激突する「一帯一路」と「インド太平洋」

笠井亮平(著・文)

発行:文藝春秋
新書判 272ページ
書店発売日2023年3月17日
定価 1,000円+税

書影:WEBサイト「版元ドットコム」より

今回のブックレビューは、「第三の大国 インドの思考」です。

今年、インドは中国を抜いて世界最大の人口大国となりました。GDPでもそろそろ日本を抜いて世界第三位の経済大国になるということです。

日本人から見ると、インドは非常に不思議な国です。(最もインドの方からすると日本のほうがよっぽど不思議な国かもしれませんが。)たくさんの言語が存在し、近年までカースト制度があった国ですが、国家は資本主義国ですし、公用語は英語ですから日本より世界に開かれている国です。数学にとても強い国民で、『0』を発明した国としても有名です。

この本は、インドが現在どのような戦略であるかということを、歴史的な観点から述べるとともに、隣国中国の戦略との比較を行い、その戦略の違いと方向性を明らかにしています。

インドは、第三の大国と書いている通り、欧米から形成される西側でもなく、中国・ロシアに代表される東側の国でもありません。そのため、今回のロシアのウクライナ侵攻についても、中立の立場を崩していません。全方位的な外交政策をとっています。インドは外交戦略として、中国の「一帯一路」に対して「インド太平洋」戦略をとっています。インド太平洋戦略については、是非この本を読んでいただければと思います。ところで、この「インド太平洋」戦略には日本も大きく関わっており、日本の外務省のがんばっている姿もこの本に書かれています。よく、日本は外交が弱いと言われますが、この本を読むと日本の外務省もなかなかのものだと思います。

インドと中国は隣国なので領土で衝突している地域はありますが、インドは必ずしも中国と敵対関係にあるわけではありません。協力できる部分は協力し合うことを行います。西側、東側等の対立から離れた「第三」の立ち位置を築き、全方位的な外交戦略をとっていきます。大国だからできることで、アメリカの傘の下にある日本ではなかなか難しい対応でしょう。

今、インドの優秀な人々は、欧米や日本などの企業に流れていますが、今後、国力がさらに大きくなっていけば、インドに留まり、インドの発展に尽くしていくことでしょう。ちなみに、マイクロソフトは、インド工科大学の新卒を年収2500万円で募集したそうです。教育(特に数学・物理・化学)にも国家として力を入れています。日本としても、追い抜かれるばかりではなく巻き返していきたいものです。